帰りたいな

 

 

 

          憂 染

 

東京へ帰る

それが、薫の望みだった。日に日に弱っていく薫の、ささやかな願いを どうしても

叶えてあげたくて、医者は止めたが それを振り切り、今 船上に二人でいる

 

 

「  風 気持ちいいね  」

「そうでござるな・・。薫殿、寒くはないでござるか?」

 

春の陽気とはいえ、船上には時折冷たい風が 通り抜ける

剣心は、何より薫の体調を気遣った

 

「大丈夫 剣心が、抱きしめてくれているから 暖かいよ」

 

そういって、笑う薫のなんと 可愛いことか・・

そんな瞬間は、たまらず彼女が愛しくなり、彼女を抱きしめる腕に 力がこもる

 

そう遠くはないであろう、薫との永遠の別れの前に 剣心は出来るだけ多くの

薫の笑顔を 見たかった

それを、瞼の裏に 焼き付けておこう

 

もちろん、薫を忘れることなど 出来るはずは無い

しかし、人の記憶など曖昧なもの

 

いつの日か、 薫の笑顔を思い出せなくなるのではないか

剣心は それが怖かった

 

 

 

「  剣心と 出会えて 色んなことを 経験して、 私の人生 合格かな 」

「 薫殿・・? 」

 

「 私はね、十分過ぎるくらい 幸せだよ 」

 

「・・・・・」

 

「剣心、 前に お願いしたこと 覚えてる?」

 

「・・お 願いでござるか?」

 

剣心は、わざと 忘れたふりをしていた。

忘れようが無い、薫からのあの 悲しい お願いだけは きいてあげられる自信がなかったのだ。

 

「 忘れちゃったの?」

薫が 不満そうにこちらを見上げる

 

「はて、拙者には さっぱり分からないでござるよ」

 

「 もう! 一大決心で言ったんだから もう言わない!! 絶対思い出してよね!」

 

「   あい分かったでござる  」

 

もう一度、あの言葉を突きつけられず 剣心は静かに 胸を撫で下ろす

 

『一大決心』

 

薫のあの言葉の真意は何なのだろう・・

自分が薫を忘れることなど 出来ようも無いのに

 

「・・・でも、 思い出したときの為に、お願いの 本当の意味をおしえとくね 」

 

ドキッ と胸が高鳴る まるで 自分の心が 見透かされているようだ

 

「 本当の 意味 でござるか? 」

 

「聞きたくないの?」

 

「 いや、 是非 聞きたいでござる 」

 

そういうと、薫は ニコッと笑い 剣心の耳に 口を寄せて 静かに囁いた

 

 

『――――――――――――――――』

 

 

 

ああ そうか。

 

 

彼女の真意を知った俺は、更に薫が愛しくなり 再び 彼女を 強く抱きしめていた

 

 

 

 

 

 

 

彼女の最後の瞬間まで

 

 

 

 

 

 

 



君と 会えなくなって、1年余り・・すまない やはり 約束は守れそうに無いよ

 

でも、きっと君は 許してくれるよね・・?

あの 約束の真意が 俺を支えてくれているんだ

 

 

だから、君が 望んだように 俺はこれからも この瞳に映る人々の 幸せを守る為

剣をふるっていくよ

 

 

 

いつか、君のもとへ たどりつける その日まで

 

 

 

 

 

 

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あとがき

 

やっと、完結しますた!!初連載なのに・・・・長かった(涙)

薫ちゃんの 言葉の真意は、あえて はっきりとは書きませんでした。

でも、剣心に勇気を与えた言葉なので、それは、正の意味だったのでしょう。

それは、貴方様が想像してください。

 

ここまで、お付き合いした下さった方々・・・

本当にありがとうございました。

 

次は明るい話を、考えています☆